横隔膜ヘルニアとは

胸とお腹は横隔膜という筋肉の膜で分けられています。横隔膜ヘルニアは、この横隔膜に欠損ができ、孔があく病気です。横隔膜に孔があいていると、お腹の中にあるはずの胃や小腸、大腸、脾臓、肝臓などの臓器が胸に入り込んで肺を圧迫します。圧迫された肺の発達が悪くなったり、出生後に呼吸困難や消化管の通過障害が生じたりします。

病気の種類

横隔膜ヘルニアには、生まれつき孔があいている先天性のもの(Congenital Diaphragmatic Hernia、CDH)と、交通事故などの外傷によって孔があく後天性のものがあります。先天性のものは、横隔膜の後方外側を中心に孔があいている胸腹裂孔ヘルニア(ボホダレク孔ヘルニア)と、前方内側に孔があいている胸骨後ヘルニアがあります。ほとんどはボホダレク孔ヘルニアで、そのうち90%は左側に発症します。病気の頻度は、日本の2011年の調査では約6000人に1人でした。先天性のものの多くは胎児期よりお腹の臓器が胸に入り込んでいますが、孔が小さいものは出生後に初めて症状がでることもあり、遅発性横隔膜ヘルニアと呼ばれます。

症状

出生前からお腹の臓器が胸に入り込んでいるタイプは、妊娠中の超音波検査で羊水が多いことや、心臓や胃、肝臓の位置の異常などから出生前に診断されることが多くなっています。この場合はMRI検査などを追加して、胸に入り込んでいる臓器や圧迫されている肺の状態を詳しく調べることがあります。生まれたときの重症度(病気の重さの程度)はそれぞれ異なりますが、出生時に呼吸困難や血圧が下がるなどの症状が生じ、人工呼吸や血圧を保つための処置を要します。胎児期からお腹の臓器が胸に入り込んでいるお子さんでは、胸に入り込んだ臓器の圧迫によって両方の肺がうまく育たないこともあり、治療に大変難渋します。これら出生直後から、特に集中的に治療が必要な場合の救命率は80%程度です。一方で出生後に症状が出る遅発性のものは、呼吸障害が軽度だったり、腹痛など呼吸以外の症状が主だったり、中には偶然発見されるものもあります。

重症例の治療

出生後は、手術よりもまず呼吸や血液循環を保つ治療が優先されます。出生後直ちに人工呼吸器をつけて人工呼吸を行います。しかし肺の発育が悪いと肺に血液がうまく流れず、いくら人工呼吸を行っても血液中の酸素濃度が保てない状態に陥ります。肺に流れる血液を増やすためには、十分に鎮静し、酸素を投与して、肺の血管を拡張させる薬剤や血圧を保つ薬剤を点滴します。また一酸化窒素NO(Nitric Oxide)は肺の血管を直接拡げる作用があるため、人工呼吸器の酸素に混合して吸入させることもあります。これらの治療を行ってもなお血液中の酸素濃度が保てない場合は、施設によっては体外式膜型人工肺ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)という装置を使用して血液中の酸素濃度を維持し、肺の発育を待つという治療が行われます。しかし人工肺の使用による救命効果に関しては、現在も評価が定まっていません。また、胎児期に診断されたもので肺の発育が非常に悪い例に対しては、胎児治療を行うことも試みられています。これらの治療により、呼吸や血液循環が安定した時点で手術を行うことが多いですが、手術時期に関しても様々な意見があり、一番良い方法はまだ分かっていないのが現状です。手術は、胸に入り込んでいる臓器をお腹に戻して横隔膜の孔を縫合して閉じますが、重症例では横隔膜の孔が大きいことが多く、孔を直接縫合して閉じることができないこともあります。このような場合には、人工布や腹壁の筋肉を用いた横隔膜の再建が必要となります。横隔膜ヘルニアの重症度は個人差がかなり大きく、一概にお話しすることは難しいです。必ず、担当の先生からの詳しい説明を受けるようにして下さい。

上記内容は、日本小児外科学会HPにも掲載がありますので、ご参照ください。
本研究班は、重症横隔膜ヘルニアに対する胎児治療の研究にも協力しております。

研究班について

2011年の難治性疾患克服研究事業の横隔膜ヘルニア分野の研究として助成金を得て、全国調査を皮切りに6施設からスタートしました。2017年からは難治性疾患等政策事業「先天性呼吸器・胸郭形成異常疾患に関する診療ガイドライン作成ならびに診療体制の構築・普及に関する研究」として助成金を受け、先天性横隔膜ヘルニアグループは15施設となりました。2020年からは、「小児呼吸器形成異常・低形成疾患に関する実態調査ならびに診療ガイドライン作成に関する研究」に名称が変更となりましたが、横隔膜ヘルニアグループとして15施設での研究を継続しています。

研究について

本研究は多施設共同後方視研究としてスタートし、2017年以降は前向き研究として継続されています。以下の15の参加施設で加療を行った横隔膜ヘルニアの小児を対象として、観察研究を行っています。観察研究とは、人為的・能動的な介入(治療行為等)を伴わず,その場に起きていることや起きたこと,あるいはこれから起きることをみるという研究方法ですので、新規未承認薬剤や新規手術方法を導入する研究ではありません。

当研究班は、横隔膜ヘルニアのエビデンスをまとめ、「新生児先天性横隔膜ヘルニア診療ガイドライン」を作成しました。
本ガイドラインは、製本版(日本語)がメジカルビュー社より2016年3月20日に第1版刊行となり、同年5月30日にはMindsガイドラインセンターのホームページに詳細版が掲載され、一般公開されています。以下サイトよりダウンロードが可能です。

なお、初回のガイドライン作成より5年が経過したため、現在改訂作業を行っております。

2019年時点では日本国内に患者会・家族会は存在しませんでしたが、2020年に新たに設立され、活動を開始しております。以下にURLを記載しておりますので、ご興味がある方は、HPを訪れてみてください。
https://www.congenital-diaphragmatic-hernia-patient-family-ass.com/

運営事務局
九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野 電話番号:092-642-5573 FAX番号:092-642-5580
mail address:ped-surg@pedsurg.med.kyushu-u.ac.jp